「RWA市場規模」は一見ひとつの数字ですが、実際にはまったく異なる3つの層が重なっています。これを混同するのが初心者で最も多い誤りです。第1層は「オンチェーン実測値」:rwa.xyzのような分析プラットフォームがブロックチェーン上のトークン化資産の総価値を集計したもので、2026年はステーブルコインを除いて約260〜320億ドル。これは現在・実在・確認可能な数字です。第2層は「ステーブルコイン込みの広義」:ステーブルコインはドルをトークン化したもので、最古かつ最大のRWAです。これを含めると市場は一気に3,000億ドルを超えます。第3層は「将来予測」:BCG、スタンダードチャータード、マッキンゼーなどは2030年に2兆〜30兆ドルと推計します。これは予測であり現状ではありません。誰かが「RWA市場の規模」と言ったら、まず「どの層の話か」を尋ねましょう。3つとも正しい数字ですが、意味するところは大きく異なります。
なぜ予測は2兆〜30兆ドルと15倍も開くのでしょうか。各機関が「数える資産の種類」を変えているからです。楽観派(スタンダードチャータード、BCG)は理論上トークン化しうるほぼ全資産——不動産、未公開株、プライベートクレジット、商品、さらには美術品や炭素クレジットまで——を含め、2030年までに相当割合がトークン化されると仮定し、16兆〜30兆ドルを導きます。保守派(マッキンゼー)は近い将来に技術的・規制的に実際オンチェーン化しうる部分だけを数え、ステーブルコインやCBDCを除いて約2兆ドルとします。違いは正誤ではなく「想定するトークン化浸透率」と「含める資産範囲」です。実用的な教訓:RWA予測を見たら、まず2つの前提——どの資産を数え、どれだけの普及率を仮定したか——を探しましょう。それで数字が強気か堅実かが即座に分かります。
「今まさにオンチェーンにある」部分だけを数えると、市場はどう見えるでしょうか。rwa.xyzの2026年データでは、最大の2分野はトークン化米国債(約130億ドル)とプライベートクレジット(広義で約180〜190億ドル、累計発行は330億ドル超)です。10億ドルを超えるその他の分野には、商品(主にトークン化金)、社債、米国以外の国債、機関向けオルタナティブファンドがあります。トークン化株式はまだ小さい(10億ドル強)ものの最も急成長しており、Ondo Global Marketsは2026年初頭に100以上のトークン化米国株・ETFを上場しました。重要な観察:rwa.xyz自身が、RWAの「オンチェーン活動」の多くは活発な取引ではなく資産発行だと指摘します。大口送金の多くは1,000万ドル前後に集中し、個人の売買というより機関の一括配分に近いのです。市場規模が大きくても流動性が良いとは限りません。
市場規模を知ることは、実際の判断にどう役立つでしょうか。3つあります。第一に「物語と現実」の距離を測れます:あるプロジェクトが「30兆ドル市場を取る」と謳うなら、どれほど強気のトークン化浸透率を仮定しているか逆算でき、過度に楽観的な評価に説得されずに済みます。第二に、絶対値より成長率を見ること:オンチェーンRWAは1年で約66億ドルから約260〜320億ドル(約4〜5倍)に伸びました。この傾きは資金が加速して流入していることを示し、現在の総額を覚えるよりトレンドをよく表します。第三に、分類別の構成比で機会とリスクを探すこと:国債とプライベートクレジットが大半を占め、今のRWAは主に機関が債券系商品をオンチェーン化している段階で、個人が不動産トークンを投機しているわけではありません。小さな分野(トークン化不動産など)が規模は小さいが急成長していれば、早期の機会かもしれませんが、流動性の罠かもしれないので、二次市場の厚みを確認してから判断しましょう。
2026年のある日、こんな見出しを見たとします。「RWA市場は30兆ドルへ——今入らなければ手遅れだ!」3層分解法を使えば、こう読めます。第1ステップ、「30兆ドル」がどの層かを確認——出典を調べると、それはスタンダードチャータードの2034年予測であり現状ではないと分かります。第2ステップ、現状の数字を探す——rwa.xyzを開くと、オンチェーンのトークン化資産(ステーブルコイン除く)は2026年で約260〜320億ドル。第3ステップ、差を計算する——30兆ドルは現状の約1,000倍で、見出しは「8年で1,000倍成長する」というビジョンを語っているのであって「今市場が30兆ドルある」わけではありません。次に判断します:そのビジョンが実現するかは、規制が道を開くか、機関が実際に不動産や未公開株をオンチェーン化するか次第で、まだどれも起きていません。だから「30兆ドル」という大きな数字だけで衝動的にRWAトークンを買うのではなく、買いたい特定の資産に立ち返り、その分類が今オンチェーンでどれだけの規模か、二次市場に買い手がいるかを見ます。同じ見出しでも、3層に分解できる人には「初期・高成長・流動性は未検証」と読め、できない人には「今買わなければ30兆ドルを逃す」と読めます。違いはそこにあります。
「市場規模」を投資シグナルとして使うのは有用ですが、罠もあります。オンチェーン実測の成長率をシグナルにする利点:実際の資金フローを反映し、1年で4〜5倍の成長はトレンドの加速を示すため、「この分野に今勢いがあるか」の判断に向きます。欠点:実測値は少数の大口機関発行で膨らみ得ます。ある月の急増は1本のファンドがオンチェーン化しただけかもしれず、個人需要の高まりを意味しません。将来予測(兆ドル単位)をシグナルにする利点:長期の上限を把握し、機関が投資する理由を理解できます。欠点:予測の前提は極めて敏感で、浸透率の仮定が少し変わるだけで結論が2兆から30兆に振れ、評価の規律としてはほぼ機能しません。実務的には、成長率でトレンドを、構成比で構造を見て、予測は「伸び代の参考」にとどめ、いずれも単独で大きく賭けないことです。